この記事では記事執筆現在で Amazon の病院・医薬品カテゴリで上位にランクされている「患者目線の医療改革」という本についてご紹介したいと思います。
我々は誰しも現時点では健康だとしても、いつかは病院のお世話になる方がほとんど。
そういう意味で我々全員が「患者」になる可能性が高いわけで、誰しもが日本の医療が置かれた現状について理解しておくのはとても有意義なこと。
この本は、その日本の医療が置かれた現状についての理解を深めるのにとても役立つ本だと思いますので、ご紹介したいと思います。
本の内容
この本の背景について
帯にも書いてありますが、この本の著者は2つの面を持ってらっしゃるとのこと。
- 患者として:ご自身で13回の入院&11回の手術経験、ご家族にも難病の方がいる
- アナリストとして:日経アナリストランキング3年連続1位
一流のアナリストとしての知識を背景に、患者の目線として医療制度について書かれているということで、この本に興味を持ちました。
特に医療制度は複雑で難しい側面があると思うので、一流のアナリストとしての実績がある方の著書というのは読んでいて安心感につながります。
医療制度に関する「事実」を理解できる
この本では、医療制度全体を以下大きく3つの観点に分類して解説しています。
- 費用(=医療保険制度改革)
- 供給(=医療提供体制改革、医療制度改革)
- 医療費の計算(=診療報酬制度改革、薬価制度改革)
私自身、こういった内容の本を読むの初めてで医療制度についてもほとんど知らない状態でしたが、全体を通じて図表も多く、それぞれの内容がとても分かりやすく書かれている、というのが印象。
何事もそうですが、まずは現状の「事実」をしっかり正しく理解しないと、その先に発生するであろうことの予測もできませんし、発生している問題への有効な対策も立てられません。
そういう意味で、医療制度全体について、「網羅的に」・「中立的に」・「分かりやすく」説明されているという意味で、この本は読む価値があるなぁ、と感じました。
他にも筆者の提言なども含まれているのですが、読んだ率直な感想としては、まずは日本の医療制度の現状を正しく理解できるという部分がこの本を読んで感じた一番の価値でした。
制度の背景を理解すれば、制度に従う者の行動原理が分かる
この本では、現行の制度とともに、その制度のもとで病院はどのように行動するだろうか、といういったことについても書かれています。
例えば、この本の中では診療報酬制度の項目として、DPCと呼ばれる包括払い制度についての説明があります。
包括払いとは、以下のような制度であると説明があります。
病名が確定すると、医療機関がその患者および保険者に対して請求できる医療費層が確定します。どのような処置や投薬したかということにかかわらず、包括的に医療費総額が決まります。
本書 「第2章 6. 診療報酬制度の仕組み」より
実際、自分自身が2019年春に自己免疫疾患で入院した病院もこのDPC適用病院でした。
病棟の廊下にこの「DPC」という制度についての説明書きがあったのを覚えていますが、結局どういうことなのか、その説明だけではよくわかりませんでした。
この本ではそういった制度の内容が理解できるだけではなく、採用されている診療報酬制度の仕組みによって病院側がどういった経営を指向するのかということにも触れられています。
具体的には、以下の通り。
DPC制度において病院が収入を増やす方法は、入院日数を短くすると同時に高稼働率を維持すべく入院患者を増やし、ベッド1日当たり単価を高く保つことです。
本書 「第2章 6. 診療報酬制度の仕組み」より
こういった診療報酬制度の裏にある背景を理解しておくことで、病院側が我々患者をどのように扱いたいのか、基本的なスタンスが推測できるようになります。
そして、推測できるということは、我々患者としてその病院側のスタンスに対して準備ができるということ。
病院も慈善事業ではないですし、我々患者の立場からも病院が健全な財政状態で存続してもらう必要があるので、現行の決められた制度のもとで利益の最大化を目指すことは個人的には何ら問題ないと思います。(もちろん度を越したものであれば別ですが。)
私が思ったのは「病院側は早期の退院を求めてくるのでは?」ということをあらかじめ想定しておけば、早めに退院後の準備に取り掛かるなり、先生と今後について相談するなり、心身ともに準備ができるだろう、ということです。
少なくとも、思っていた以上に早く病院から退院を求められて慌てて次のプランを考える、と状況には陥らずに済むのではないかと。
この包括診療制度は1つの例ですが、病院や先生がどういったスタンスで患者と接しようとしているか、その背景にある大きな流れを理解しておくことは、自分や家族がいざ患者になった時にすごく役立つんじゃないかと思います。
1人の患者としての感想
個人的には今受けている医療には満足
この本では医療制度に関する各個人の考え方は、その人が置かれた状況によって大きく異なると書かれています。
その人の置かれている状況や、医療との関わり、大げさに言えば人生経験の違いから意見も異なります。
本書 第1章 「今、日本の医療はどうなっているのか」より
私自身、2019年春に自己免疫疾患で40日近く入院しましたが、少なくとも私個人としては現状の医療システムに大きな不満はないというのが偽りのない正直な感想です。
今回の入院の経過としては、近所のクリニックから紹介を受けて大きな病院を受診し、そこで正しい診断を受け、入院治療を受けて症状が改善したのち退院という流れは、今の制度が目指している流れなんだと思っています。
ただ、それは幸い大きな後遺症もなく退院できたからで、そうでなかったらまた違った感じ方をしていたかもしれません。
とはいえ、私のように正しい治療を受けて症状が改善される人が大多数だと思うので、少なくともこの仕組みを将来に渡って維持していくには一個人として何ができるのか、というのは気になるところです。
有権者として出来ることがあるのか
正直なところ、現在の日本でこういった医療の仕組みが選挙での争点になることはなく、我々自身もそういったことについてあまり考えることは少ないのではないかと思います。
本書では、「有権者として考えたいこと」という項で以下のように書かれています。
読者の皆さんに考えていただきたいことがあります。どのような医療制度を望むかではなく、医療費が高齢化によって増えていくということによって、他の予算、例えば公共事業費や文教費、防衛費などとのバランスをどうするかということをどのように考えるか、という点です。
本書 終章「2. 有権者として考えたいこと」より
自分自身、今までこういったことを考えることはありませんでしたが、実際に自分が国に難病指定されているような病気の患者となり、今後長い間患者として病院と関わり続けるであろう立場になった以上、これまで以上に医療の問題についてはアンテナを張って考えていきたいと思うようになりました。
この本はそういったきっかけをくれた本であり、この記事をここまで読んでくださった皆さんも同様に自分のこととして考えるきっかけになればと思います。
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